コマルさんと
少女はコマルを宝物と呼んだ
少女は知っていた。
彼女が仲間にだけ見せる顔があることを。
彼女が仲間を大切にしていることを。
彼女が仲間に打ち明けれない悲しみを抱えていることを。
なぜ知っているかって?
彼女が一番輝く笑顔を魅せるのはあの思いを寄せる男の前だから。
彼女が戦闘では誰よりも仲間をかばって傷つく姿を見てしまったから。
彼女が苦しそうに唇を血が流れるほど噛みしめている姿を見たことがあるから。
知っている。知っているのだわ。
だって少女"は"アナタのことが大好きだから。仲間の誰よりもみんなを見ているのだから。
……それならば!少女がすることなんて決まっている。
だって少女は、彼女に笑っていてほしい。泣いてしまうほど辛いときは傍にいたい。一緒に遊んでほしい。温かな布団の中で眠りたい。髪の毛を結んでほしい。一緒にご飯を食べたい。
――カレンはアナタの心と身体を護ってあげたい。
だって彼女は少女の大切な仲間でお姉ちゃんだから。
ずっと、ずっと前から。多分だけど出会ったあの日から彼女は少女の宝物―大好き―だったんだ。
少女は駆け出した。
カリファーに閉じられた鍵付きの扉は蹴破る。行儀が悪いどころの話じゃないが仲間の命がかかってるんだ。お説教なら後で沢山聞くから許してほしい。まあ、その前にここから逃げ出せば問題ないだろう。海楼石製じゃない手錠は走っている最中に腕力で引きちぎって粉々にして外した。だって邪魔だったんだもん。後の少女の供述である。それで壊せるのはお前だけなんだよなぁ、なんて感想はそっとグッと飲み込んで少女の握力と腕力を褒め称えてほしい。
「やめて!!ロビンさんとコマルさんに、ひどいことしないで!!」
ロビンを殴り、コマルを足で踏みつける男、スパンダムを蹴り飛ばした少女は二人を守るように前に立つ。何度殴られたのだろう。何度蹴られたのだろう。二人共、酷い傷だ。
「クソガキィィーー!!」
「仔猫さん!!」
「カレンちゃん!!」
怒りに震えるスパンダムの剣による攻撃は鉄塊にて弾き、無防備な腹部に指銃を撃ち込む。
「ぐふぅ……!!」
「カレン、お前のことなんか怖くないよ。」
仲間が泣いていることの方が怖くて、悲しい。
仲間が傷つけられている現状の方が腹が立つ。
「海軍大将の娘が海賊の味方をする気かぁ!?いいかぁ!?そいつらはなぁ!!」
「関係ない!!」
「!?」
CP9全員が揃う場で少女はロビンとコマルを庇うように前に出る。このムカつく男が命じればこの者たちは少女を再度捉えるために武を構えるだろう。
それでも。どんなに怖くてとも。護ると決めたなら、もう目を逸らしたりしない。
「世間や政府の意見や印象なんてカレンが二人のこと大好きな気持ちには関係ない!!」
悪魔の子?化け物?
それはロビンとコマルのことを知らない人の戯言だ。
「カレンはコマルさんのこと大好き!!ロビンさんのこと大好き!!2人ともカレンの宝物なの!!カレンが護りたいと思ったから今ここに居るのだわ!!」
だって少女の前のロビンはいつだって優しかった。少女の前のコマルはいつだって笑っていた。
二人共、いつだって優しくて温かい人だった。少女には彼女たちが好きということしか分からない。分かりたくもない。二人の深い、深い部分のことは本人たちから聞いたことしか信じたくない。顔も名前も知らない人たちの噂話なんて、少女が二人にもらった沢山の思い出に比べたら霞むような内容のものしかないじゃないか。
少女はただ心の赴くままに、アナタを好きでいたいだけだから。そんな言葉は聞いてなんてあげないのよ。
少女の目の闘志は消えない。だから、その意志に応えるように少女の道しるべは命じる。
「カレン!!ロビンとコマルを頼んだぞ!!」
「はい、ルフィさん!!カレンに任せて!!」
ルフィが頼ってくれたなら少女も応えるよう。難しいことなんて、考えない。ただ二人を護る。それが少女に課せられた任務だ。海列車に乗って橋を飛び越えた仲間が迎えに来てくれるまで絶対に護り通してみせる。
「くそっ!ルッチ以外は麦わらの相手をしに行け!!ルッチはおれの護衛だ!!」
「「「了解。」」」
「ルッチはそのクソガキを捕まえろ!!多少傷ついても海賊にやられたと言えば青キジも納得するだろうよぉ!!」
「了解。……痛いのが嫌なら抵抗するな。」
「捕まらないわ!!ズルでもなんでもいい!宝物が護れるなら!!だから"みなさん"!!カレンたちを助けて!!」
その言葉を聞き届けた世界は少女の望みに応える。風は突風となりルッチの足を止めた。その隙に少女はコマルとロビンの膝裏に腕を入れて抱えると扉を駆け抜けた。
「ロビンさん!コマルさん!カレンにちゃんと掴まっててね!」
「カレンちゃんどうするの!?」
「ルフィさんたちが来るまで逃げます!」
少女が扉をくぐり抜けると同時に、まるで扉が意志を持っているかのようにその扉は堅く閉ざされる。一つの扉だけでなく、くぐり抜けた扉が全てその動作を見せるものだから怖さも一周回って頼もしく感じられることだろう。
「小賢しい……!!」
「大丈夫、絶対に負けないだから!!」
閉ざされるとなれば破壊するのみと言わんばかりに破壊音を響かせながら、ルッチは迫り来る。
___命懸けの鬼ごっこが幕開けだ。
/////
どうして?どうして?どうして?
その感情だけがコマルの心を埋めつくしていた。
___だってここまでして貰えるほどのこと、私、なにもしてない。
世界政府に喧嘩を売ってまで取り返すような存在じゃない。戦いだって足手まといのことだって多いし、ナミやロビンのように女の魅力で周りを癒せるわけではない。偶然、出会って。旅を一緒にして。そして攫われただけのただの鈍臭い面倒な女だ。何より、この小さな温もりに宝物と称して貰えるほど私は立派な存在じゃない。多分、沢山隠してる。思い出せない過去や今の私のこと。たくさん、沢山隠してるんだ。私はこんな真っ直ぐな愛情を貰えるような人間じゃない。
「関係ないよ。」
「えっ……。」
「コマルさんがね、コマルさん自身をどう思ってるとかもカレンには関係ないよ。」
コマルの堂々巡りの暗い考えに沈む心は少女が掬いあげられる。いつもそうだ、この子は。いつだって大人が言葉にし難い感情を真っ直ぐに届けてくれる。
「カレンがただコマルさんのこと好きなだけなんだよ。」
「うんっ!ありがとう、カレンちゃん」
両手が動くなら抱きしめたかった。このぬくもりに甘えてしまいたかった。きっとこの気持ちは同じように愛を投げ飛ばされているロビンだって抱いているはずだとコマルは自身を持って言える。それほどにこの愛情は優しかった。
「あらら〜。悪い子してるね、カレンちゃん。」
「っ!!コマルさんロビンさんごめんなさいっ!!」
少し聞き覚えのある声と冷気を感じたときには上空に投げ飛ばされていた。きっと青キジだ。ルフィやロビンが氷に閉じ込められた日の記憶を思い出しながら、海楼石のせいで動かない体で少しでも迫りくる痛みに耐えようとする。だがその痛みは予期せぬ人物の腕に抱き留めることで防がれた。
「だ、れですかあああ!!?」
「離してっっ!!」
「おれでもそう思うけど巻き込まれて死にたくなかったらじっとしてて。」
綺麗な金髪を刈り上げの上にポニテールにしている男は両手の私とロビンの重さや抗いに動じることなくただ目の前に光景に集中していた。それに釣られて青キジと少女がどうなっているかを確認することになる。
「カレンちゃん!!」
「仔猫さん!!」
「……大丈夫です。凍ったのは上着だけなので!」
氷に覆い尽くされている光景に少女の安否がどうしても気になり声を張る。その返事に安堵の息を吐く。吐いた息が白くなるほどこの場の空気は冷え切っていた。
「わたしの仲間に……!……しかもカレンは貴方の娘でしょうっ!!」
「……なに、するんですかっ!!カレンちゃん、逃げてください!!」
だが思い出されるのは、あの氷に冷たく閉じたられたルフィとロビンの姿だ。腐っても海軍大将。海賊の相手と成ればそれが娘となっても冷酷な対応になるかもしれない。
だから、今はただ、少女に逃げてほしかった。だってコマルだって少女のことが好きなんだ。大切なんだ。少女が思ってくれる分と同じ位、コマルだって傷ついてほしくないと思っている。
「大丈夫。カレン、負けないよ。」
でも少女は逃げてくれなかった。
「たとえ、その相手がパパでも!」
だけど、私たちを安心されるように少女は笑って、闘志が残る瞳で父親を見つめるんだ。
嫌だ。やめて。その人はルフィだって敵わなかった相手。それも少女の父親だ。コマルは知っている。少女がどれだけお父さんのことを好いているかを。何度も聞いた。パパとの思い出、パパに会いたいという願い。好いた者同士での闘いなんて、虚しすぎるじゃないか。
「カレンちゃん、やめ「大丈夫。」……っ!」
私の静止の声は金髪の男に止められる。
「あの人は、カレンちゃんを傷つけられないよ。」
「どうして、そんなこと、いえるんですかっ。」
「だってあの人、カレンちゃんのパパだもん。後これくらいなら、鍛錬でよくやってたしね。」
「信じて、いいのね?」
「もちろん。そうだな、万が一が起こりそうな時はおれが止めると約束するよ。」
金髪の男は、氷で凸凹になった地面を蹴りで均すと私とロビンを地に降ろす。その動作は酷く丁寧で、この人が敵側の人間だと一瞬忘れるほどだった。
「そもそもあなたは誰なの?」
「おれ?アルベール。あの人の部下だよ。」
「も、しかして指切り歌のアルベールさん!?カレンちゃんがよく話してくれる!?」
「うん、それはおれだね。」
少女の歌う指切り歌は少しアレンジがされている。
【指切りげんまん。嘘ついたらアルベールさんに怒られる。指切った。】
その歌の張本人だというこの男はなぜか自慢気のドヤ顔を見せていた。なんだかムカつくドヤ顔である。
「まあ、それなら信じられるかもですね。」
「そうね……。」
「多少の信頼を得たところで、後ろ向いてください。錠を外すから。」
「えっ!?」
「おれ、世界とかとカレンちゃんを天秤にかけてどちらかを選べと言われたらカレンちゃんを選べるんだよね。あの子が笑っていることの方が大事なんだ。」
アルベールは早く早くと私とロビンを後ろを向かせると、すんなりと海楼石の錠を外す。あんまりにも、すんなりと行き過ぎて怖くなるほどの順調さだった。そもそもその鍵はどこからきたという疑問も湧いてくる。
「この鍵?あそこで娘とじゃれてるおっさんに氷で作らせた。」
「「……。」」
「そうなるよねー。でもそれくらいおれらも親ばかで兄ばかなんだよね。」
そう言う、彼の瞳は本当に大切な者を見る慈愛に満ちたモノだった。
……本当にムカつく顔である。私だってこの男に負けないくらい少女のことを思っているのになんだか負けたような気分にさせられる。
「これはね、けじめなんだよ。おれたちが勝手にあの子の親離れを早めたことの。」
「それはカレンが最初はスピカと二人で旅をしていた原因かしら。」
「そう。でもあの子はまだおれたちを好いてくれている。このままだと、苦しくなるのは「無駄ですよ。」……どうしてそう思うか、聞いても?」
「だってカレンちゃんは意外と頑固だから一度自分が好きになったものを簡単に嫌いになんてなりませんよ。」
「そうね、私達もさっきそれを思い知ったところなの。」
アルベールは私とロビンの言葉を受け止めるとため息を零す。先程まで凍てつくような寒さの氷だと思っていた。でも彼の話を聞いてからはなんだかのこの覆い尽くすは少女を守るために作られた壁のように思えてきた。だってこの氷が少女を傷つけないというならば、こんなに大掛かりに能力を使う必要は、ないのだから。
「まあ、おれもそんな気がしてるんだよね。」
「じゃあ、どうするのかしら?」
「そういうのは、父親の判断に任せることにするよ。」
話すことは話を終えたというアルベールはこの時間が終わるまでの間だけでも、少女が辿って来た旅の詳細を知りたいと嘆く。その言葉に最初はズッコケそうになるも、ホッカイロを差し出されたり温かいお茶を渡されたりしたら、まあ少しくらいならという気持ちになるんだから不思議なものだ。そんな談笑を交わす中、闘いの終わりを告げる大きな低い音が鳴り響く。
どうなったのかが気になり氷の壁を超えて少女の様子を確認すると、座り込んだ青キジの腰の横辺りの地面に刺さる少女の愛剣とその青キジの腹部辺りに座る少女の姿を捉えることができた。
「少し強くなったね」
「旅の最中も、ちゃんと鍛錬、してたのだわっ!」
青キジの声は優しいさがこれでもかというくらい詰め込まれたものだった。少女の髪を手で梳かしながら撫でる手も、少女を見つめる瞳も、青キジの全てがこの少女が愛しいと語っていた。
「ねぇ、ぱぱ……」
先程まで息を切らしていた声に悲しみと涙が入り混じる。
「カレンは、いらない子?」
「ちがうよ。」
「カレンのこと、もう、まもってくれない?」
「絶対にそんなことはないよ。」
ダムが崩壊したかのように泣きじゃくる少女を青キジは抱き上げると目線を合わせて、諭すように語りかけた。
「カレンはまだパパの、むすめ、だよね?」
「当たり前だよ。大事な娘だよ。」
「じゃあ、なんで!なんで、いっしょにいれないの!!」
「ちがうよ、おれが弱くなったんだ。おれが悪いんだ、カレンちゃんは何も悪くないんだよ。」
拭っても、拭っても溢れる涙は止まらない。この涙は、少女の気持ちを思うと勝手に溢れてくる私自身の涙だった。だって、12歳だ。まだ親に甘えていい年齢。そんな年齢の子が兄と一緒とは言え、親元を離れて旅をするなんてどれだけ寂しかったか、辛かっただろう。
「こんな形でしか守ってあげれなくてごめんね。笑って生きてくれれば、それ以上は望まないのにな。」
「じゃあ、それならね、カレンは海賊になるわ。悪い子だから、今から反抗期なのだわ!」
「反抗期?」
はて、反抗期とはそんなかわいい形で突入するものだったろうか。突然湧き出た疑問が奇しくも私の涙を止めた。
「だから、ちゃんと、いつか、カレンのことを捕まえに来てね!」
「……うん、わかった。約束だね。」
青キジが小指を差し出すとすぐにそこに少女の小さな小指が結ばれる。そして少女のみが使用するアレンジの歌が約束を結んだ。
「またね、パパ!」
その声と満面の笑みを合図にロビンは花を咲かせ、私は辺りに転がる先の鋭い氷を青キジの元に飛ばす。もちろん、少女のことはぷかぷか浮かせて回収済みである。
「クラッチ!!」
「おっと、ひどいことする。」
「ひどいのはどっち?」
「私たちの末っ子を泣かせたんですから、これくらい当然です。」
避けれたはずなのに敢えて私達の攻撃を喰らった青キジはなんてことないという様子で砕けた氷の体を繋ぎ合わせて文句を投げてくる。だって私達だって思うこと沢山あるんだから、これくらい言ってやらないと気が済まない。
「「うちの子は絶対に返してあげないんだからっ!」」
柔いお腹に手を回して抱き上げ、ふにふにのまろい頬に自身の頬を擦り寄せる。パチパチと数度の瞬きを経てから、少女はまんまるの太陽を作ってそれを私と同じように擦り寄せてくれたのであとは逃げるのみ。今日もうちの子はかわいい。錠を解いてくれたアルベールのみにお礼を告げて立ち去ろうとするが、少女は思う出したかのように声を上げた。
「アルベールさん、カレン、みんなと一緒に出航したい!」
「いいよ、アルベールお兄ちゃんに任せて。」
「アルベールお兄ちゃん大好きぃいい!!」
「おれも大好きだよおおお!!」
「人の娘と愛を確かめ合わないでくれる?」
「娘が反抗期中()のお父さんは黙ってくださーい。カレンちゃんに好きって言ってもらえてないからって僻まないでくださーい。」
今度こそ醜い男同士の争いをバックミュージックにして私たちは仲間を探す逃亡劇に戻る。海楼石がなくなれば、少女に抱えて走ってもらい必要はなくなるので、探索はスムーズに進んだ。だってこの少女のなんでも聴こえる耳の先があれば仲間の居場所なんてすぐに分かるのだから。
「コマル!ロビン!カレン!やっと会えた!」
「お前ら錠してねぇじゃねーか!!」
「ほんとだ!?なんで!?」
戦いの跡はのこる司法の塔を十数分も走り回れば、愛しい仲間にやっと出会えた。引っ込めたはずの涙が滲んでくる。
「カレンのお兄さんが外してくれたの。」
「お兄さん!?スピカ!?」
『鳥違いです!!!!』
「アルベールさんなのだわ!!出航もアルベールさんがなんとかしてくれるって言ってました!」
「アルベール!?もしかして海兵では!?」
「そうなの!中将さんなの!パパも居たよ!」
「それダメなやつじゃない!?」
「アルベールさんはパパより頭に良いから大丈夫だと思うのだわ!」
「それは青キジと私達が大丈夫じゃないやつ!!」
仲間と合流した瞬間にテンポ良く会話が進むものだから涙と一緒に笑いもこみ上げてくる。ああ、やっと私はここに帰ってこれたんだと実感できる。
「コマルーー!!笑ってる暇も泣いてる暇もないんだからね!!」
「はい!!もちろんです!!逃げましょう!!」
「っ!水が来るのだわっ!」
「え!?こんな通路で!?」
「でも大丈夫、絶対に地上まで運んでくれます。だから少しの間だけ耐えてください。」
「末っ子がそういうなら、信じるしかねぇな。」
私たちは少女の不思議な力にはもう慣れっこなのだから。少女を信じて、息を大きく吸い込んで迫りくる水の壁に身を任せた。
少女の言う通り、地上までの最短経路を突き進む水の線は私達を空近くまで打ち上げる。真下には海兵の軍艦が確認できる位置だ。……ここから一体どうするのだろう。
「カレン!ここから一体どうするの!?」
「カレンとお兄ちゃんに任せて!!」
「そうだった!!鳥居た!!」
『助けねーぞ!お前らぁ!』
「剃ッッ!!」
浮遊感は少女の手に再度抱えられたことで無くなる。
「コマルさん!」
「大丈夫!もう少し我慢できるよ!」
「ありがとうございます!!」
そして私は再度空の方へ投げ飛ばされる。正直この空の旅の浮遊感は怖い。怖いけど、それ以上に私は少女を信頼できる。絶対に私を受け止めくれるって知っているんだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんたち!危ないからどいてください!!」
下降から少女の張り上げた声、海兵達が蜘蛛の子を散らすよう去る姿と足音。そしてドォンと響く着地音が聴こえる。そしてすぐに、私を呼ぶ少女の声が近づいて来た。
「コマルさん!」
「カレンちゃん!」
「お待たせしました!」
そこからは快適な空の旅。小さな浮遊感と腕を回す少女のぬくもりを感じながら海軍の戦艦に着地すると私の足はゆっくりと地に降ろされる。
「あとは、」
「ルフィさんが勝ってくれるのを待つだけです!!」
「それと、脱出船のこの船の護衛だ!!」
「はい!!」
ゾロに戦闘を促された少女はすぐ駆け出す。末っ子の少女に私だっていい所も見せたい一心で不慣れな戦闘を繰り返す。ちぎってはなげ、ちぎってはなげである。
「コマルちゃん大丈夫かいっ!?」
「もちろん!!ルフィが頑張ってるんです。私も最後まで戦います!!」
「……頼もしい限りだよ。」
サンジとも目線を合わせて笑い合う。強がりの笑みだっていい。今はただ、みんなとあの自由な海に帰るために戦うんだ。
「一緒に帰るぞぉぉぉおおお!!ロビン!!コマル!!カレン!!」
その雄叫びは聞き逃さなかった。私達の船長の勝利の声。勝った。ルフィが勝ったんだ!
だが勝利の喜びもそこそこに脱出船が砲撃が直撃して燃えてしまう。その上、ルフィも戦いの疲労から動けないというどん詰まり状態に陥る。
「下をみろぉ!!海へ飛べええええ!!」
「……下?……ああ、うん!カレンちゃん、行こう!」
「はい!海へ!」
ウッソプの声を合図に橋の下に続く海を確認すると私達の仲間はそこにいた。そこまで迎えに来てくれていた。
最後の力を振り絞り、私達は海へと飛び降りる。自暴自棄からの行動かと海兵は言うがそれは違う。だって私達の仲間が、メリー号が迎えに来てくれたのだから。
「みんな、ありがとう。」
「お迎え嬉しかったです!ありがとうございます!」
「本当にありがとうございます!」
「気にすんな!ししし!」
こうして私達は、やっと麦わらの一味に成れたんだ。
/////
「ルフィさん、あのね、カレンね、」
「おう!どうした?」
どこかのお兄さんの手で正義の門が閉められたことでエニエス・ロビーを抜けた私たちは無事にウォーター・セブンに一人も欠けることなくたどり着いた。そして私たちを最後の力で送り届けてくれたメリー号を見送り、ルフィの回復を待った一ヶ月後。歌え騒げの宴がウォーター・セブンで開かれていた。沢山の笑いに包まれる中で、私とロビンは少女に腕を取られて抱き留められる。
「皆さんと、宝物とずっと一緒にいたいの!」
「おう!」
「うん!」
「ふふっ!」
「でもね、カレンはね、パパたち……海兵さんも宝物なの。それでも、海賊はできる?」
「お前、馬鹿だなぁ!海賊は自由だから海賊なんだよ。」
ルフィは私達の腕を抱きしめたままの少女に自身の宝物の麦わら帽子を被せる。そしてそのまま少女のお腹をつかんで高く持ち上げて視線を合わせた。
「わぁ!」
「お前が誰が好きだろうと関係ねぇ!好きはそのまま好きでいろ!」
「うんっ!ありがとう、カレンの船長!」
ルフィは、私達のキャブテンは、いつだってちっぽけな悩みは笑い飛ばしてくれる。大きな悩みには一緒に立ち向かってくれる。だから、この人だから、私は海賊に成れた。海に飛び出せたんだ。
「にしし!お前らぁ!宴だあああ!!」
「「「「おう!!」」」」
海は自由だ。ときに私達を愛し、ときに私達に牙をむく。
それは誰しもへの平等な訪れだからこそ自由なのだ。
そんな場所で私はこの愛しい仲間たちと生きていく。鼓動を続けていく。最後のその時まで。